女流棋士の西山朋佳さんは現在、プロ棋士編入試験(第3局)に挑戦中です。次の対局に1勝すると女性として初めてプロ棋士の資格へ大きく前進です。
それにはあと2勝する必要があります。これまでに福間香奈(旧姓・里見)が2022年にプロ棋士編入試験を挑戦。0勝3敗の結果となり、残念な結果となりました。
もし第3局に勝利すると、歴史的快挙へ大きな前進となります。この記事では、第3局以降の対戦相手はどれくらい強いのかなど過去の歴史とともに解説していきます。
西山朋佳の編入試験第3局に挑む
西山朋佳女流三冠が挑むプロ棋士編入試験は、彼女の将棋人生において重要な節目となっています。
本記事の前半は、以下のテーマについて書いていきます。
- 西山朋佳のこれまでの歩み
- 編入試験の審査官と求められる強さ
- 過去に女流棋士がプロ棋士に挑戦した人
西山朋佳のこれまでの歩み
以下に、彼女のこれまでの歩みと試験に関する詳細をまとめます。
西山朋佳の将棋キャリア
西山朋佳は1995年6月27日、大阪府大阪狭山市で生まれました。2010年に将棋の奨励会に入会し、三段まで昇段しましたが、2019年に退会し、女流棋士としての道を選びました。奨励会とは、全国からプロ棋士として実力があると認められた人たちが集まる場所です。ここで四段への狭き門を争います。
奨励会には年齢制限があり、26歳までに四段になれなければ退会するルールになっています。彼女は当時25歳で、まだあと1年挑戦する猶予がありました。しかし、「いつまでもやっているつもりはなかった」と女流棋士としてやっていく決断をした経緯があったのです。
女流棋士としての成功
女流棋士として活動を開始した後、彼女は数々のタイトルを獲得しました。特に、女流王将、女王、白玲のタイトルを保持し、通算で16期の女流タイトルを獲得しています。これだけにとどまらず、プロ棋士との公式戦で13勝7敗と見事勝ち越す成績まで残したのです。
プロ棋士編入試験の条件
そして日本将棋連盟が設けているプロ棋士編入試験の受験対象となる公式戦で以下の条件を満たしたことをきっかけに、奨励会で果たせなかったプロ棋士となる四段への道を切り開きました。
現在の公式戦において、最も良いところから見て10勝以上、
なおかつ6割5分以上の成績を収めたアマチュア・女流棋士の希望者
公式戦とは、日本将棋連盟が定めている成績を評価することができる大会での対局のことです。
- 2024年7月4日プロ棋士編入試験の受験資格を満たす
公式戦で勝利し、直近の成績が13勝7敗となり、棋士編入試験の受験資格を満たしました。この成績により、彼女は日本将棋連盟に受験申請を行うことが可能に。
- 2024年7月25日棋士編入試験受験申込を受理
日本将棋連盟が西山女流三冠からの棋士編入試験受験申込を受理しました。これにより、彼女は正式に試験への参加が決まる。
- 2024年9月10日棋士編入試験の第1局に勝利
棋士編入試験の第1局が東京・将棋会館で行われ、西山女流三冠は高橋佑二郎四段に勝利しました。編入試験の勝利は、女流棋士で初。
- 2024年10月2日棋士編入試験の第2局で敗北
第2局が同じく東京・将棋会館で行われる。西山女流三冠は山川泰熙四段に敗北。この結果、残り3局で2勝すれば合格となる状況になる。
- 2024年11月8日棋士編入試験の第3局
関西将棋会館で上野裕寿四段との対局が予定されています。ここでの結果が合否に大きく影響します。
続いて、編入試験の審査官とはどんな人なのか見ていきます。
審査官 | 対局 | 試験日 | 対局結果 |
---|---|---|---|
高橋佑二郎(四段) | 第1局 | 2024年9月10日 | 勝利 |
山川泰熙 (四段) | 第2局 | 2024年10月2日 | 敗北 |
上野裕寿 (四段) | 第3局 | 2024年11月8日 | |
宮嶋健太 (四段) | 第4局 | 未定 | ー |
柵木幹太 (四段) | 第5局 | 未定 | ー |
編入試験の審査官と求められる強さ
日本将棋連盟が定めるプロ棋士編入試験の審査官は、西山朋佳女流が達成できなかった奨励会で四段に昇段したプロ棋士たちです。
日本将棋連盟が定めるプロ棋士編入試験において、試験官の対局順には一定の意味があります。
試験官は新四段の棋士から選ばれ、棋士番号の若い順に5名が選出されます。この選出方法は、以下のような理由から重要です。
- 公平性の確保: 新四段は最近昇段した棋士であり、実力が均等であることが期待されます。これにより、試験を受ける側が特定の棋士に対して有利または不利になることを避け、公平な審査が行われます。
- 実力のバランス: 新四段は、将棋界での競争が激しい中で昇段した棋士たちです。彼らはそれぞれ異なるスタイルや戦略を持っているため、受験者にとって多様な対局経験が求められます。これにより、受験者の実力を多角的に評価することが可能になります。
- 試験の難易度調整: 審査官が新四段で構成されることで、試験の難易度が適切に設定されます。もし全ての試験官が経験豊富な棋士であれば、受験者にとって非常に厳しい試練となり得ますが、新四段を選ぶことで適度な挑戦となります。
プロ棋士編入試験官はどのくらいの強さなのかレーティングで見ていきます。
参考:https://shogidata.info/list/rateranking.html
試験官 | レーティング | 直近の対戦成績 | 全棋士の順位 |
---|---|---|---|
高橋佑二郎(四段) | 1,506 | 7勝6敗 (53%) | 130位 |
山川泰熙(四段) | 1,524 | 5勝10敗 (33%) | 122位 |
上野裕寿(四段) | 1,644 | 21勝11敗 (65%) | 76位 |
宮嶋健太(四段) | 1,564 | 15勝11敗 (57%) | 101位 |
柵木幹太(四段) | 1,554 | 15勝10敗 (60%) | 105位 |
数値だけでみると、第3局以降も強敵ぞろいです。しかし、西山女流も受験資格を得たからには負けていないと考えています。西山女流が受験資格を得た当時の対局相手のレーティングを見てみます。
受験資格を得た当時の対戦相手
対局相手 | レーティング | 対局時期 | 結果 |
---|---|---|---|
阿部光瑠(七段) | 1,656 | 2024年7月4日 | 勝利 |
木村一基(九段) | 1707 | 2024年6月 | 勝利 |
高橋道雄(九段) | 1472 | 2024年5月 | 勝利 |
石田直裕(六段) | 1661 | 2024年5月 | 敗北 |
谷合廣紀(四段) | 1646 | 2024年3月5日 | 敗北 |
富岡英作(九段) | 1408 | 2024年1月26日 | 勝利 |
小山怜央(四段) | 1578 | 2023年12月25日 | 敗北 |
佐藤康光(九段) | 1778 | 2023年12月8日 | 敗北 |
藤本渚(五段) | 1816 | 2023年11月15日 | 敗北 |
佐々木大地(七段) | 1840 | 2023年10月4日 | 勝利 |
渡辺和史(七段) | 1747 | 2023年10月 | 勝利 |
島朗(九段) | 1490 | 2023年9月21日 | 敗北 |
三枚堂達也 (七段) | 1736 | 2023年9月19日 | 敗北 |
梶浦宏孝(七段) | 1794 | 2023年9月 | 勝利 |
谷合廣紀 (四段) | 1646 | 2023年7月28日 | 勝利 |
堀口一史座 (八段) | 1259 | 2023年7月28日 | 勝利 |
所司和晴 (七段) | 1257 | 2023年6月7日 | 勝利 |
木下浩一 (七段) | 1353 | 2023年6月7日 | 勝利 |
レーティングは対局当時ではなく、2024年11月現在の数値になっています。
しかし、試験官のレーティングより上位のプロ棋士に勝利しています。例えば、1840の佐々木大地(七段)や1747の渡辺和史(七段)の棋士です。
ただ、試験官はまだ対局数が少ないためレーティング初期値の1500付近であることも理解しているつもりです。
過去に女流棋士がプロ棋士に挑戦した人
います。それは、里見香奈さん(女流五冠)です。
まず、里見香奈女流五冠は、2022年にプロ棋士編入試験に挑戦しました。
彼女は公式戦での成績を基に受験資格を得て、若手棋士5人との五番勝負で3勝すれば合格という条件のもと、試験を受けましたが、結果は0勝3敗で不合格となりました。里見はこの試験を「最後の挑戦」と位置付けており、その後は再挑戦の意向を示していません。
なんで棋士に女流とそうでないものがあるのか?
女流棋士制度は1974年に正式に発足し、女性が将棋界でプロとして活動するための道を開くものでした。当初は6名の女性が初代女流棋士として認定され、これにより将棋界には「プロ棋士」と「女流棋士」という二つのプロ制度が共存することになりました。
女流棋士は、男性棋士と同様に公式戦で対局することができますが、最初の頃は男女間の棋力差が大きく、女流棋士が男性棋士に勝つことは非常に稀でした。1981年には、山下カズ子が新人王戦で男性棋士と対局し、その後も数回対局を重ねましたが、公式戦で男性棋士に勝利したのは1993年まで待たなければなりませんでした。
この時、中井広恵が池田修一六段に勝利し、女流棋士として初めて男性棋士に勝利したことは大きなニュースとなりました。
女流棋士がプロ棋士に勝利した対局
参考までに過去の女流棋士がプロ棋士(男性)に勝利した対局をまとめます。
女流棋士名 | 初勝利の対局日 | 対局相手 |
---|---|---|
中井広恵 | 1993年12月9日 | 池田修一(当時六段) |
里見香奈 (当時16歳最年少記録) | 2009年1月9日 | 稲葉陽(当時四段) |
西山朋佳 | 2019年7月19日 | 所司和晴(七段) |
加藤桃子 | 2018年5月13日 | 及川拓馬(六段) |
奨励会在籍時の対局も含む。
女流棋士がプロ棋士(男性)に勝利することが、1974年から1993年までないのは意外です。西山女流が第3局を勝利することは、歴史的偉業だということがわかります。
西山朋佳の編入試験第3局とその意義
西山朋佳の編入試験に合格すると、初の女性プロ棋士誕生となります。
すでに編入試験に1勝したことは、女流棋士として初のできごとです。後半は以下のテーマについて書いていきます。
- なぜ女流プロ棋士はいないのか?
- 編入試験を受ける男性棋士との違い
- 西山朋佳 編入試験 第3局のまとめ
なぜ女流プロ棋士はいないのか?
女流プロ棋士がいない理由は、将棋界における性別による構造的な障壁や制度的な違い、社会的な要因などが複合的に影響しています。以下に、具体的かつ網羅的にその理由を説明します。
① 制度の違い
プロ棋士と女流棋士の制度の違い
プロ棋士になるためには、日本将棋連盟の奨励会を通じて厳しい昇級試験をクリアし、四段に昇段する必要があります。一方、女流棋士は比較的緩やかな基準で認定されるため、女流棋士になる選択肢が存在します。このため、女性はプロ棋士を目指すよりも女流棋士として活動することを選ぶ傾向があります。
奨励会の年齢制限
奨励会には26歳までにプロ棋士にならなければならないという厳しい年齢制限があります。このため、若い頃から将棋に専念しなければならず、年齢制限を超えると夢が断たれることになります。女性棋士はこの制限を避けるために、女流棋士としての道を選ぶことが多いです。
実際、里見(福間)香奈、西山朋佳、加藤桃子は奨励会員でした。しかし、年齢制限のルールにより退会しています。
② 社会的な要因
競技人口の差
将棋界全体において、女性の競技人口は男性に比べて少なく、これが女性棋士の数にも影響しています。男性棋士が多くの対局経験を積む中で、女性棋士はその機会が限られています。
育児や家庭の影響
女性棋士は、育児や家庭の責任を抱えることが多く、将棋に専念する時間が制限されることがあります。これにより、競技における成長や発展が妨げられることがあります。
③環境の違い
将棋界の文化
将棋界は伝統的に男性中心の文化が根強く、女性が活躍するための環境が整っていないことが多いです。特に、若い女性棋士が男性棋士と同じように競争し、成長するための場が限られています。
山下カズ子や蛸島彰子といった女流棋士たちは、男性棋士との対局時に不愉快な思いをした経験をいくつか語っています。以下に具体的なエピソードを紹介します。
山下カズ子の経験
山下カズ子は、将棋界での女性棋士としての立場を確立する過程で、男性棋士との対局において不快な思いをしたことがあると述べています。特に、対局中に男性棋士から「女流棋士だから」といった偏見に基づく発言を受けたことがあり、これが彼女にとって非常に不愉快な体験だったと語っています。彼女は、女性棋士が真剣に将棋に取り組んでいるにもかかわらず、性別による先入観で見られることに対して強い不満を抱いていました。
蛸島彰子の経験
蛸島彰子も、男性棋士との対局において不愉快な思いをした経験を持っています。彼女は、将棋界が男性中心であるため、対局時に「女性だから」という理由で軽視されることが多かったと述べています。特に、対局中に男性棋士から「駒を落としてあげようか」といった発言を受けたことがあり、これが彼女にとって非常に失礼であり、女性棋士全体に対する偏見を感じさせるものであったと語っています。
今はそのような偏見はないと思われますが、そのような経緯から日本将棋連盟の女流棋士とは別にLPSAという女流棋士の団体もあります。
編入試験を受ける男性棋士との違い
女流棋士と男性棋士は異なる制度の下で運営されています。
男性棋士は「奨励会」という厳しい養成機関を経てプロ棋士となります。奨励会では、級位を上げていく過程があり、最終的には三段リーグで上位2名に入ることで四段に昇段し、プロ棋士となります。
一方、女流棋士は「研修会」という別の機関で育成され、B1クラスまで昇級すれば女流棋士として認められます。このため、女流棋士になるためのハードルは相対的に低いとされています。
女流棋士が戦っているのは研修会という奨励会の下部組織です。
— 🐖ヤドのン🐖 (@___yadon___) February 18, 2018
アニメからの画像拝借で申し訳ないですが、添付画像が非常にわかりやすいと思います。
残念ながら女流棋士はプロではないんです。 pic.twitter.com/Vmo6ykYTAq
日本将棋連盟は、奨励会を退会したとしてもプロ棋士になれる制度を設けています。プロ棋士編入制度を設けたのは、2006年5月26日の通常総会での決議で始まりました。この制度によって男女ともに再挑戦可能となったのでした。
男性も奨励会で年齢制限によって退会を余儀なくされて、そのあと実力が認められてプロ棋士になった人物がいます。アマチュアからの門戸が開かれているのです。
過去にアマチュアからプロ棋士編入試験に合格して見事デビューを飾った人物を挙げます。
人物 | 成績 | コメント |
---|---|---|
瀬川晶司(当時35歳) | 3勝2敗 | 2005年11月達成。当時まだ存在しないプロ棋士編入制度のきっかけを作る。 |
今泉健司(当時41歳) | 3勝1敗 | 2015年4月達成。プロ編入試験が制度化されてからの初の合格者。戦後、最高齢でのプロ入り。 |
折田翔吾(当時30歳) | 3勝1敗 | 2020年4月達成。YouTuberでもある。アゲアゲ将棋実況の将棋実況の動画を運営。登録者数4万。 |
小山怜央(当時29歳) | 3勝1敗 | 2023年4月達成。奨励会員の所属経験のない、初のプロ棋士。同年、里見香奈も挑戦。 |
同じく奨励会の経験なく、プロ棋士になった人物に花村元司がいます。しかし、戦前のできごとのため割愛しています。
西山朋佳 編入試験 第3局のまとめ
本記事のまとめです。
ここまで、女流棋士がプロ棋士になったことがない歴史、過去に挑戦した人などを紹介してきました。女流棋士が男性棋士に勝利するまで、何年もかかっていることやプロ棋士になるためのハードルがあることを解説してきました。
- 女流では前人未到のプロ棋士編入試験で1勝を挙げている
- 初の女性プロ棋士への大きな前進
- 第3局の対戦相手は審査官のうち一番成績がよい
- 公式戦では数値上もっと強い相手に勝利している
これらの要素を加味しても、歴史的偉業を達成する可能性は多いにあります。
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